さまざまな「K」の断片、森山大道写真展「景」に行ってきた。

さまざまな「K」の断片、森山大道写真展「景」に行ってきた。

2018年1月18日

こんにちは、kennet64です。

好きな写真家は誰ですか?ともし聞かれることがあるなら、古今東西たくさんいる好きな写真家の中でも森山大道さんの名を挙げないわけにはいかない。

長年路上に立ち続け「路上スナップ」と称して撮られた極度にコントラストの強いモノクロ写真(もちろんカラー写真も)は、あたかも架空のロードムーヴィーのひとコマを切り取ったかのような想像力を掻き立てるばかり作品で、常に強烈なインパクトと刺激を与えてくれる。

なぜか最近、森山大道さんの本が密かなマイブームとなっていて今年になって最初に読んだのが『路上スナップのすすめ。森山大道さんが東京の街や車で走った北関東などを撮影しながら自身のスナップに対する考え方や視点、カメラマンとしての姿勢やノウハウについて語ったものなのだけれど、これがすこぶる面白く、それをきっかけに今は『犬の記憶を読みふけっているところ。

そんなタイミングの最中に開催されることを知った森山大道さんの個展『森山大道「景」』。これは行かないわけにいかない。ということで個展が開催されているNADiff Galleryへ足を運んでみることに。




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森山大道「景」

森山大道「景」』が開催されているのは、恵比寿駅から歩いて5分ほどのところにあるアートショップNADiff a/p/a/r/t(ナディッフ アパート)の地下にあるギャラリーNADiff Gallery。

今回の個展は、2017年10月に発売された都市の片隅、人影、さまざまな「K=景」の断片を追い求めた撮り下し写真集写真集『K』に収録された作品を展覧し、その写真集の中に書かれているエッセイ「原点と現点 – ニエプスへの旅/今日の三匹」を糸口に展示構成をし、森山大道さんの写真に幾層にも潜在する「」を辿るというもの。

1Fのショップ からギャラリースペースへ続く螺旋階段を降りると、写真集『K』の表紙原画が飾られている。

展示作品の詳細が分かる会場の案内図。

実験室からの眺め

フランスの発明家。写真技術の先駆者、ニセフォール・ニエプスが190年前に撮影した、人類史上初めての写真「実験室からの眺め(ル・グラからの視点)」の写真現版をアメリカ・テキサス州の大学博物館で撮影した作品。

この「実験室からの眺め(ル・グラからの視点)」は、森山大道さんが若かりし頃、写真雑誌の図版解説の一枚として出会って以来そのイメージに強く惹きつけられ記憶の奥底に焼き付けられている、いわば氏の写真の原点と言っていいもの。

左が森山大道さんが、フランスのサン・ルウという町に今もあるニセフォール・ニエプスの実験室があった館の窓辺で「実験室からの眺め(ル・グラからの視点)」とほぼ同じ構図で撮影した作品「ニセフォール・ニエプス「実験室からの眺め」の撮影スタジオ(シャロン=シュル・=ソーヌ、サン・ルゥ)<実験室からの眺め>」。

右は、森山大道さんの自室で撮影されたオマージュ的な作品「森山大道自室<実験室からの眺め>」。

写真集『K』の中に収められているエッセイ「ニエプスへの旅」の中で森山大道さんはこう記述している。

原盤は、長い年月の経年劣化で、すでに原景のイメージは薄れ消えかけていたが、光線の具合によっては、イリュージョンのように、すでに僕の瞼に残る夏景色が映り見えてくる。(中略)ぼくはポケットからカメラを出して、原版に向けてさりげなく数枚のシャッターを押した。そして、 あゝこれでぼくのニエプスへの長い旅は終わったのだと、名状しがたい思いと共に立ちつくしていた。(『K』収録のエッセイ「ニエプスへの旅」より抜粋)

さまざまな「K」の断片

写真集『K』で収録されている撮り下ろし作品の数々。これらは、写真集の中のもうひとつのエッセイ「今日の三匹」を糸口に選ばれたもの。

この「今日の三匹」というエッセイがまた面白い。森山大道さんの躰のなかには三匹の生きもの(やさぐれた一匹の犬、ろくでなしの猫、エタイのしれない虫)が棲みついていて、その三匹があれを撮れ、これを写せと指図するというもの。でもその内容が森山大道さんの写真家としてのスタイルを如実に表現している。

幸か不幸か、こいつら三匹は日常きわめて俗っぽく、高尚などという言葉にはほど遠いので、その点ぼくとは気が合うのだ。三匹それぞれチープでジャンクでポップな物事にしか興味がないわけで、すべからく写真は通俗であるべきだという、日頃のぼくのモットーとも合っている。(『K』収録のエッセイ「今日の三匹」より抜粋)

森山大道さんの作品を見るといつも時間の流れが麻痺するような感覚を覚える。昔のような、今のような曖昧となった不思議な時間感覚。

それと同時に行ったことがないはずなのに、あたかも行った(見た)ことがあるかのように思えてくるデジャヴュのような感じ。それは、さながらありもしない遠い記憶を呼び覚まされた錯覚に似たような感覚とも言えるかもしれない。

今回の写真展に展示されている作品を見ても、それを痛切に感じたし、「K」というのは「」であり、その「」によって切り取られているのは「記憶」や「過去」の「K」でもあったりして、そんなさまざまな「K」の断片を垣間見たような気がする。

サイン入り写真集『K』

森山大道「景」』。やはり刺激的な写真展だった。ならば、写真集を買わない手はない。ということで森山大道さんの直筆サイン入りの写真集『K』を購入。

森山大道「景」』は、2月4日(日)まで開催されてます。

ではまた。

森山大道「景」

2018年1月16日(火)~2月4日(日)月曜日定休
会場:恵比寿 NADiff Gallery
時間:12:00~20:00(入館は閉館の30分前まで)
料金:無料
http://www.nadiff.com/

 

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神奈川県川崎市在住。職業は、庭師(植木屋)。「リラックス&チル」をテーマに、園芸にまるわるコトやシンプルでデザイン&機能性に優れたモノやツール、居心地のいい場所やお店、メロウで心地よい音楽などを独自の「目利き」で発信中。